父は若い頃合唱団に入っていたし今でも声楽を習っている。母もよく台所で歌ったりなどしていた。私はというと1歳の時に路線バスのなかで「フニクリ・フニクラ」を歌ったそうだ(本当だろうか?)。学生の時は合唱をやっていたが発声はさっぱりよくならなかった。一人暮らしを始めた頃から何故か「トリスタンとイゾルデ「リング」だの「サロメ」だの、CDで絶叫するソプラノを堪能しだした。1番好きだったのはジェシー・ノーマンの豊かで繊細な声で、最初にパルテノン多摩で聴いた時はまるで空気の振動でなくもっと固体に近いもの、太い綱を振り回されているような感じすら受けた。ブレスも長く艶もあり、弱音も確かで歌曲の知的なアプローチにも定評があった。全盛期にはステージでは神の様に振舞っていたが近年はより聴衆に親しみやすい雰囲気になられた。
最近声楽のリサイタルを余り聴かなくなったのは好きな方が次々引退されたりした所為かもしれない。それとも声楽を楽しむエネルギーが減ってきたのだろうか。歌曲のリサイタルもアリアの夕べも息を詰めて聴き所を待ち受けたりするので疲れるし、声質や声量に圧倒的な魅力を持つ方が少なくなっているような気もする。器楽のコンサートでは聴衆の雰囲気も違っていて「熱狂」に遭遇することは少ないが、声楽に比べて好不調の波が小さい筈という安心感がある。現役で居られる期間もはるかに長いからファンも長くやれる訳だ。しまいにはソロも余りないシンフォニー好きになってしまうかも知れない。いやそれはないか。

わが泣くがままに、愛を抱いて~ヨーロピアン・ライヴ

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